喪失からの出発(六) 作:越水 涼
喪失からの出発(六) 作:越水 涼
母の百か日法要が済み、一区切りがついた。母が遺した若い頃の、と言うより嫁に来た時に持って来た箪笥いっぱいの着物をごみとして捨てるのは忍びない。私は妹にLINEして次の日曜に整理することにした。
《師走に入り何かと気ぜわしい頃となりましたが十一月中旬過ぎると帰って来るようなことを言っていたがその後どうなってしまったのですか。体でも悪いのでしょうか。父さんが言っていたので手紙を書いたのです。こちらも昨夜少しが雨が降ったけど、今日は午後からは風が強く寒い日になってきました。風邪でもひいて寝ているのですか。心配しています。今日も十二月末にもなると大雪が降るようなことをテレビで言っているのです。寒くなると風邪も流行ってきます。何しろ一人なので熱でも出して寝ていると困るのです。朝や夕方にもなると毎日冷たい寒い日ばかりです。火の元や風邪、体には気を付けてね。また、手紙くださいね。 十二月四日 午後二時 涼へ 父母より》
母が心配するのも当たり前なのだ。成人した男とはいえ、電話もないひとり暮らしの就職浪人がこの寒い日にどうしているだろうかと気を揉んでいるのだ。公務員試験もことごとく失敗した二十二歳の、手紙もよこさない、電話もよこさない、その様子が一切わからないとなれば、心配するしかないのだ。父や母にも、妹にも日々の色んな嫌なこと、困りごともあったに違いないのに。そんな中でも私のことを家族は常に気にかけてくれたのだ。つつましい生活の中で、何とか金を工面し、仕送りしてくれた父母。私はこの頃何を思い、何を希望に生きていたのだろう。
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