スキップしてメイン コンテンツに移動

投稿

注目

喪失からの出発(十二) 作:越水 涼

 喪失からの出発(十二) 作:越水 涼  今日は西村賢太氏の命日である。四年前の二月五日。結果的には亡くなる二年程前から、何が契機だったかは忘れたが、私は氏の小説を続けざまに読み耽っていた。しかしそれから何年も経てている。そんな今日、僅かなさざ波が私の心の中に発った。勤務先にひどく珍しく義妹から電話があったのだ。同僚の子が私に電話を繋ぐ。話してみるとその娘、つまり姪がこの近くで大学の入試を受けると言う。が、腕時計を今日に限って忘れて来たの由。私に持っていないかと聞いて来た。電話する前にコンビニでも探したが売っていなかったと。私に借りれないかと。しかし、私はケータイを持つようになってから腕時計はしていなかった。電話を待ってもらい、周りの子三人にも聞いてみたものの、ことごとく持っていないとの状況だ。仕方なく、上司の男に説明し貸してもらったのだった。彼が腕時計を机に置いて仕事するのは毎日見ていた。  朝聞いていた通り、試験が終わり四時前に、姪が来た。中学生にも見える姪ははにかんだ顔で礼を言って帰って行こうとする。  「試験できた?」 「うん、まあまあ」  聞くところでは、私の母校を受けたらしい。発表はまだ先だろうが、どんな結果になっても自分の思うように生きて行ってほしいと願った。彼女は生まれて間もない頃何か月も入院していた。せっかくの命だ。好きなように、せめて自分の意思を諦めることのないように、と願った。       

最新の投稿

或る古書店店主の物語 最終章  作:越水 涼

喪失からの出発(十一) 作:越水 涼

或る夏の朝 作:越水 涼

喪失からの出発(十) 作:越水 涼

喪失からの出発(九) 作:越水 涼

喪失からの出発(八) 作:越水 涼

喪失からの出発(七) 作:越水 涼

喪失からの出発(六) 作:越水 涼

喪失からの出発(五) 作:越水 涼

喪失からの出発(四) 作:越水 涼