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ときめきはあの空の下で(二) 作:越水 涼

 ときめきはあの空の下で(二) 作:越水 涼  あの日は、娘を飲み会の会場近くに送って帰宅するところだった。助手席に置いたケータイがLINEの着信音を鳴らした。二つの信号は青で通過し、三つ目の信号待ちでケータイを手に取った私はKからの久しぶりの連絡に「おっ」と言葉にならない音を吐いた。その文面はこうだ。 「越水さん、すみません。だいぶ遅れましたがお誕生日おめでとうございました😄変わりなくお元気ですか??今年の一年は越水さんにとって良い年になりますように😎また、私事で恐縮なのですが、第一子を妊娠しました👍予定日は六月です😎越水さんから頂いた手紙にもあったように、子どもを連れてまた会いに行きますね😊」  Kには幸せになってほしいと願っていた。君ならきっといい母親になるよ、なんて私は勝手なことを言った記憶がある。女性にしては背が高めで、その手に子どもの手を掴む彼女をいつも想像していた。母親が似合う女性っていると思う。残業時間に何を話したかなんてもう五年も前のことだ、憶えていない。ただ、彼女が会社に来た最後の週末にたった一度だけ、食事に誘った。ふたりだけでの送別会。私はノンアルを、彼女はカクテルを飲んだ。洋風居酒屋で、ベーコンときのこのアヒージョやボロネーゼや魚介とトマトのリゾットなんかを食べながら、好きな小説のことや将来のことを話した。将来といってももう定年に近かった私は、私のことは話さずに彼女には元気で楽しくあってほしいとだけ言ったと思う。だんなとけんかしても次の朝は忘れているようにとか、何でも周りの人に相談しろよとか、子どもを持ちたいなら、女性にはあまり時間がないんだからだんなとよく話し合えよというような話をした気がする。今考えれば、所詮この私が言ったようなことは彼女はわかっていたことだろう。その時私は、もう会社で同じ時間を持てないんだと思うと何か話したという事実を残しておきたかっただけなのかもしれない。 「また子育ての悩み相談させてください」とLINE。「僕ではあまり相談相手にはならないが話は聞かせてもらうよ」と返した。女が子どもを持つのと、男が子どもを持つのとでは、まったくその大変さは雲泥の差があると思う。体の中に何か月も命を守ってから産むのだ。奇跡としか言いようがない。それを始めたKを私は再度尊敬する。私は、子どもとその子を大事そうに抱っこして...

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