喪失からの出発(七) 作:越水 涼

 喪失からの出発(七) 作:越水 涼

 ふと思い立って、三年前に退職した元同僚にLINEをしてみる。年賀のLINE以来だった。

「お疲れさま。お元気ですか?暑くなって来るので体調気をつけてね」二日経って返事が来る。

「越水さん!お久しぶりです!返事遅くなりました。私は元気です!実は最近離婚しまして。実家に戻ったんです。バタバタしてましたけどやっと落ち着きそうです。越水さんも決算も終わって落ち着きましたかね?また近いうちに近況報告会したいですね」

 人それぞれだ。

《十二月に入り何かと忙しくなりました。元気そうで安心しました。学校も休みに入るなら豊橋でやれる、あまり夜遅くならないところで家の中でやれるアルバイトがあれば勉強に差し支えない程度にやるといいと思いますが、卒業論文を早く書いてしまってからのことです。************何はともあれ今年も終わりです。四年生悔いのないよう勉強してください。論文も仕上げてお金をちゃんともらえるところでアルバイトあれば早く見つけてやるといいです。くれぐれも風邪ひかぬよう体に気を付けて、夜遊びせぬよう十時過ぎ迄位には早く休むことです。朝は八時半位には起きて少しの時間も無駄にせずやらないとすぐ一日終わってしまいます。こたつはそちらで買いなさい。外出の時はこたつの電気は切って行くことです。忘れると火が熱して火事になると大変です。くれぐれも火には用心すること。一月になったら一度下宿を見たいと思っています。色々書きましたが頑張ってやってください。体に気を付けて。又電話して。            十二月六日 十時 母》   

 三年の途中で、諸事情で下宿を出た私は、大学から目と鼻の先の下宿に変わったのだった。共同の便所と洗面所で押入れが内側に突き出た四畳半の部屋だった。玄関を入り靴を脱いで廊下を歩いて右側にある三つ目の狭い部屋。この後四年生の冬までここで生活した。まだ出来始めたばかりのコンビニのサークルKが近くにあり、そこでキャベツを買って千切りにしてマヨネーズをかけて食べていた記憶がある。一つ百円位だったか。四年生になろうというのに夢も希望もなく、何を考えていたのだろう。

     



              


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