ときめきはあの空の下で(四) 作:越水 涼

 ときめきはあの空の下で(四) 作:越水 涼

 今朝の夢の中で父に会った。いつの父だろう、一人でバスを待っているところだった。私は旅行から帰ってきたところで、まだ子どもはいなかった頃のようだ。これから何処かへ行く父は笑っていた。まだ元気そうだった。一人でバスに乗ろうとしているのだ。元気に違いない。今も悔やんでいるのは、もっと父にやさしく接してやればよかったということだ。あの頃の私は会社でもまあまあの中心人物で、自分がやらなきゃ誰がやる、なんて考えだった。仕事に加えては結婚したばかりの自分達のことしか考えられなかった。本当は父も母も何か助けを求めていただろうに、私は全くそちらを向こうとしなかったのだ。毎日一人最後まで残り、仕事をした。朝も定時の一時間前には出勤し、段取りして…。もっと周りに頼ればよかったにと思う。

 今日はひな祭りの日である。今年は二月になって突然妻がひな人形を飾ろうと言い出した。ここのところ十年か十五年か飾っていなかったのにだ。ひな人形の七段飾りを父と妻の母が、長女が生まれた時買ってくれたものだ。今思えばこんな高価な物を買わせてしまったのは失敗だった。最初の五年くらいは七段をちゃんと飾ったが、その後は男雛と女雛だけになり、その後は飾らなくなったのだ。父は痛い出費と思ったか、可愛い孫のためならと思ったか、本心は知る由もない。ただ、この七段飾りの前でひな祭りの食事をし娘たちの幸せな未来を祈ってくれたのは間違いないと思う。今は亡き私の祖母と父母、妻とその母と妹と私たちでわいわいと食事している写真もある。もうその光景は戻って来ないにしても、ずっとずっと私の瞼の奥に在る。 

 つたない言葉で歌っていた「あかりをつけましょぼんぼりに…」の娘の声が今にも聞こえて来そうだ。会社から帰って居間に座って目をつぶった私はしばらくの間、ずっと昔の光景を思い出そうとしていた。もう、三月三日といって、何をする日でもなくなった今日だが。

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