僕は銀杏<秋> 作:越水 涼

僕は銀杏<秋> 作:越水 涼

 僕は銀杏。身長はビル3階ほど。今はまだ緑。僕は雄木なのでギンナンを落としません。長良橋通りの或るところに立っています。ずっと昔から立っています。そう、路面電車が走っていました。目の前に電停があったよ。ある時期までは岐大祭の仮装行列も通ったな。喫茶店や色んなお店、銀行も県の総合庁舎もあったのに。

 この通りも段々と歯抜けになったな。でも、朝に夕に小学生、中学生、高校生、会社員、犬の散歩のご老人が僕の下の歩道を通る。まれに犬のふんもそのままに。キーホルダーの落とし物。この前なんか僕の立っている真ん前の会社に高校生が入って行き、トイレを借りていたな。それも9月にも10月にも。時々、アンパン売りや、托鉢のお坊さんも入って行くな。皆それぞれ人生やっているんだな。

 大きな図書館もできた。そのそばに市庁舎の建設中だ。こんな立派なものいいなあ。また風景が変わって行くんだな。

 僕は銀杏。年に一度だけ主役になる季節がもうすぐやって来る。今は緑だけど、もうすぐ”黄葉”の季節だ。黄色といえば僕ら銀杏がそこかしこに立ち並ぶ。主役の僕ら。雌木はギンナンを落とすから、それも美味しいでしょう。人間にとっては。

 今日も日が暮れてカラスたちが南の方へ飛んで行くよ。風景が変わっても何も変わらない。

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