佐々木君どうしてる? 序章 出会い 作:越水 涼

 序章 出会い

 夜明けから降り始めた雨が昼を過ぎた今でもなおしとしとと降り続いている。妻と娘は義母の介護の為さっき出掛けた。銭湯と買い物に連れて行くのだ。

 私は一人外の雨の音を聴き乍ら本を読んでいる。

 銀杏(いちょう)から思い出したことがある。私の母校にも銀杏が何本も植えられていた。今、その高校の文化祭を”銀杏祭(ぎんきょうさい)”と言うらしい。すぐと思い出すのはテニスコートの側にある銀杏の下に時季になると落ち強烈な匂いを放つギンナンのことだ。新婚さんらしいと聞いていたK先生が私の高校一年の数学の担当だったのだが、そのK先生がギンナンを拾って新婚の奥様に茶碗蒸しを作ってもらうらしいという噂が流れていた。

 それと、K先生のせいではないのだが私は高校一年で数学から落ちこぼれた。最初から一切がちんぷんかんぷんなのである。その同じクラスにいた佐々木君もまた私と同様数学が苦手だった。片や、国語と英語は得意なのである。当時私も本を読んでいるからという自負があったが佐々木君は多分私よりもっと読んでいた。国語は私と彼でクラスの一番、二番を競うことになった。

 その佐々木君との初めての会話は部活を決める時だった。

「河井君は何に入るの?部活は」

「運動は苦手だし、文化部にしようと思っとるんやけど」

「わしも同じやわ。生物部はどうやろ」

「生物部か。僕もそうしようかなあ」

 こうして二人は生物部に入ることになったのだった。

 彼との共通点はもう一つあった。電車通学だったことだ。”上り”と”下り”の違いはあったが二人が乗る、駅と学校の間の主に帰りに歩き乍ら色んな話をするようになった。この時はまだ二人が長い付き合いになることは思いもしなかった。

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