佐々木君どうしてる? 第四章 釣りに行ったね 作:越水 涼

第四章 釣りに行ったね 

 私の生まれた土地には海はないが川がある。川に挟まれて北部には山がある。夏から秋にかけて川には鮎が泳ぐ。

 私の親戚は揖斐川で鮎の簗をやっている。ホームページによると大正三年創業で今の代表が五代目だ。私の祖母が健在の頃は大抵毎年行っていた。祖母の妹がそこへ嫁いでいたのだ。特上コースなら、赤煮、一夜干、刺身、塩焼、 魚田、フライ、酢〆、雑炊、香の物。特A、A、B、Cコースで品数が一つ、二つと少なくなったりするわけだ。値段も五百円ずつ下がって行く。

 記憶にあるのは私の祖父が達筆だったので、筆でB紙にメニューを書いていたことだ。今から四十年も前だから特Aコースでも二千円くらいだったと思う。私は法事やらお盆に親戚が集まった時に、その簗で鮎料理を食べさせてもらうのがとても楽しみだった。絶品だった。私はフライに思いっきりソースをかけてサクッ、サクッと食べたり、刺身をコリッ、コリッと食べるのが好きだった。残念ながら今年はついぞ食べることなくシーズンが終わってしまったのだが。

                    ×××

 季節が何時だったか、佐々木に誘われてその日、釣りに行った。そこは川ではなくため池だった。私は何故かいきなり竿と釣り針と糸を買って日曜日を迎えた。私の家からその現地までは自転車で行った。一時間以上かかった。

「おえっ、まさか道具を揃えて来るとは思わんかったぞ!」

 佐々木は私が自転車に道具をくっつけて現れたのに腰を抜かして言った。

「釣り、面白そうやで買ってまったわ」

 その時の私は本当に釣りをやる気でいたのだ。

「よし、ほんならどっちが先に釣れるか競争やぞ」

 私達は二人並んで、佐々木が持って来た餌を付けて糸を垂れた。池はひどく濁っていて何も見えない。しばらくして私が先に釣った。佐々木はその大きな魚を見て「ブルーギルやぞ」と言った。感動した。

 しかし、何故だか佐々木と釣りに行ったのはこれが最初で最後だった。

 別の友人と伊自良川で釣りをした。その時釣れたのか釣れなかったのかの記憶もないが、その帰り真っ暗の道中、自転車で帰る途中に側溝にタイヤが落ち、体を地面に打ち付けて、三時間かけて家に帰ったのだった。

 当時ケータイもなく、連絡もできず祖父がすごく心配していたらしい。

 佐々木、釣り久し振りにどうだい?

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