佐々木君どうしてる? 第六章 新入部員に好かれてる? 作:越水 涼

 第六章 新入部員に好かれてる?

 私の通勤途上では、私が知る限りではY川、糸貫川、I川、N川の四つの川を渡ることになる。多くの場合川の上を橋が架かり車がすれ違う一車線か二車線ずつという場合が多い。橋という感覚がなく道路に覆われてその下に川があるという場合もある。四つの川のうちの一つ、糸貫川の近くには、何十年も前には大きな紡績工場があり、私の祖父も一時期そこの守衛をやっていたという話を聞いたことがある。今その場所には”モレラ岐阜”という大型ショッピングモールがあり、近くを通る国道はそこに向かう車によって渋滞するため”モレラ渋滞”という言葉がある位だ。

 糸貫川が流れる近くには、岐阜高専、岐阜第一高校、本巣松陽高校、岐阜農林高校があり、かつて名鉄が走っていた時は美濃北方や北方千歳町、北方東口といった駅がこれらの生徒達の最寄り駅になっていたのだ。今でも樽見鉄道の北方真桑駅などは彼らにとって重要な駅だ。

               ×××

 私と佐々木は二年生になっていた。一か月後には文化祭を控え生物部としては水槽にメダカを入れて展示しその生態をB紙に書いて掲示するということになった。ある秋の日曜日は私と佐々木と奇跡的に四月に入部してくれた三人の一年生で糸貫川のメダカを捕ることになった。糸貫川ショッピングセンターの駐車場に、私達二年生とK君、Sさん、Mさんが集まった。そばを流れる糸貫川の川辺に降りて行きそれぞれが、たもで川の水をすくった。思ったより簡単にメダカが捕れ、私が持って来たバケツには三十匹以上のメダカが集まった。そしてその日は一時間も要することなく解散となった。

 一年生の三人には先に帰ってもらい、私と佐々木は咲き始めた秋桜が自生する糸貫川を眺め乍ら話した。

「あのさあ、Sさん河井のこと好きなんやないか?」

「はあ?何で?」

 私は佐々木の突然の発言に素っ頓狂な声を上げた。

「この前河井がおらん時に科学実験室で喋っとる時に、浩二先輩ってどういう女の子が好きか知ってますかって、いきなり聞いて来たんやて。Sさん河井のこと好きなんやて」

 何時もは苦虫を潰したような顔しかしない佐々木が珍しく笑い乍ら話す。

「まさかそんなことないやろ。あの子の方が僕より背は高いし、普通好きにならんのやないの?」

「でもさあ、色々聞いてきたぞあの子。河井の好きな歌手は?とか、好きな本とか、食べ物とかってさあ」

「僕の好きな食べ物なんて、佐々木でも知らんやろ。そんなこと聞いてどうするんや?」

「そりゃあ、気になる男について色々知りたいんやないの?」

「そうやなくって、単なる時間潰しじゃないの?」

「いや、あの顔は河井のことしか頭にないって顔やったぞ」

「どういう顔やそれ?」

 実の所私は、佐々木の言う通りならそれはそれで満更でもなかった。


コメント

人気の投稿