冬の修学旅行 作:越水 涼
冬の修学旅行 作:越水 涼
今、私は三十歳。東京で通訳をしている。珍しく積雪となった朝、山手線の通勤電車の中で、ふと思い出したことがある。
高校二年の修学旅行。秋に台風が来たため延期になって一月の終わりの沖縄へ行った。
「沖縄は曇りかな?寒くないかい?桜咲いてたりするの?」と父からメール。
「雨降ってるよ。桜は今のところ見てないよ」と私。
「海、寒くなかったかい?」
「寒かったけど凄く楽しかったよ。困ってないから大丈夫だよ」
「とにかく楽しんで、その風景を記憶してきてね」
優しかった父の笑顔。小さい頃から家を離れるまでいつも、私が困ってないか気にかけてくれた父を思い出した。
ドアが開きホームに降りると危うく転びそうになった。
「行ってきます」
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