エッセイ//私の道草日記 其の16 越水 涼

 2021.2.2

　今日は会社を休みました。昨日からの雨がやみ晴れて来て、外からの柔らかい日射しが店内に入って来ます。ちょうど店の外に見える幹線道路には通勤時間でひっきりなしに車が走っています。私はこのドーナツチェーン店のすぐ近くの市民病院に妻を送りその診察の間、「チャーシューパイ」と「エンゼルクリーム」とコーヒーを注文して、それを朝食として待っているのです。

　実は妻や娘に頼まれてこの店の開店時間に間に合うように家を出て来ました。期間限定のある商品の購入を指令されていたのです。何年も前から映画に何本も主演していて、私もその演技を評価している某人気俳優がコマーシャルしているこの商品は、数量も限定ですぐ売り切れると聞いていました。だから開店時間前に並んでくれと。

　店に入るとすぐ大きく元気な気持ちのいい声をかけてくれた店員さんに聞いてみました。この店は予約制で、後日取りに来なければいけないとのこと。それは無理だなあと、妻と娘にメールしました。この六種類のスペシャルドーナツを一個ずつの予約はできるのですが、一時間とか二時間後ではなく残念なことに三日後に取りに来なければならないのです。

　さて、この五十周年を迎えたチェーン店は今までも定番ドーナツとは別に幾つもの人気商品を世に送り出して来ました。開発部門や宣伝部門と店頭のスタッフは勿論、会社全体のそれぞれの持ち場でのスタッフの日々の努力がこのチェーン店をここまでにしているのだと思うのです。近年は多くの他のチェーン店と同じように数字的には他店との競争やコロナ下での外出縮小など厳しい状況だと思います。

　ですが、このガラス張りの外の景色が見えて、楽しい音楽が流れていて、注文を受ける元気な女性店員の声が聞こえる、くつろげるこの空間の雰囲気が私は大好きです。個人的に言えばドーナツよりもこの店のコーヒーが一番好きです。今日は三杯も飲みました。業績的に厳しい中でも基本に忠実に続けていくことこそ一番大事なんだと思うのです。それは私自身の毎日についても同じです。今の状況、条件の中でやれることをやる、何とか生き続けて行く、そのことだけで、もうもうけものだと思うのです。