エッセイ//私の道草日記 其の18 越水 涼

2021.4.26

  今午後七時。会社帰りに西の空に輝く大きな月を見ました。ちょうど満月なのかもしれません。とても大きく見えました。でも今書こうと思っているのはまた違うことです。

 おかげ様で娘がこの四月から社会人になりました。車で通っています。最初の二、三日は私も心配していましたが今のところ事故もなく飄々と通っています。相変わらず自分から話してくれることはないのですが、元気で頑張ってほしいものです。今はまだ研修期間中で本当の業務はこれからですが、いずれにせよ全てのことは自分次第だと思います。自分の頭で考えて人生を切り開いて行ってほしいです。娘達を通勤時私の車で送ったのももう随分前のことになってしまいました。下の娘も車で大学に通っています。

 そういうわけで、四月からは近くの別の場所に私は駐車場を借りています。そう、そこまでわずかに百メートル程ですがそれだけでも歩く間に、空を見上げ、電線に鳴く雀の声を聞き、それぞれの家の前に生える花を見て、そして何より今朝のような雲一つさえもない快晴の日の朝の空気を感じ、これほど気持ちいいものはないのです。

 仕事柄、三月と四月の中旬までのあたりは一番憂鬱な日々です。会社の業績自体は今からどうすることもできません。私達はあくまで決算書や附属明細書をまとめ、役員や株主に内容を説明できるようにすることが第一の仕事です。ですので、三月の終わりから四月の頭頃の近くの公園に咲く満開の桜を美しいものと感じることができないのです。少なくとも私は三十年ずっとそうでした。情けないことにそうでした。心に余裕がないのです。

 さて、今。ほぼまとまった決算。心に余裕が出てきました。この時期、木々の青さが美しい。花の中心は、人工的に歩道に植えられたつつじでしょう。赤紫やピンクや白のつつじに私はとても気持ちがやわらぐ気がします。私の通勤途上にも自生するつつじが見られます。そして何よりも柿の木の葉っぱが綺麗です。私の住む町もその隣の市もまた柿の一大産地なのでそこここに黄緑色の葉っぱが朝の通勤時間を楽しませてくれるのです。もちろん十月になれば橙の柿がなり、これがまた圧巻です。

 朝のひんやりした空気と青葉繁れるこの季節。まだ暑くなる前のこの季節なら、私のようなものにも何かできそうな気がするのです。


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