私の気分はいい加減 作:越水 涼

 私の気分はいい加減 作:越水 涼

 私の気分は単純である。もし月曜日の今日の朝から土砂降りだったらひどく気が滅入る。もし金曜の今日の朝からワイパーが壊れるのではと気になるくらいの土砂降りであっても、今週は今日で終わりだからまあいいかと思う。

 昨夜からずっと降り続いていた雨が午後三時くらいだろうか、上がった。さっき会社からの帰り道、車を停めて外へ出ると雨上がりの東の空に低く雲が流れ、いい感じで朱く染まっていた。きれいだ。いつも金曜は少しだけ早めに仕事を終えて帰りたいと思っている。しかしこの時間帯長良川に架かる「大縄場大橋」を渡ると渋滞にはまった。みんな考えることは一緒だ。  その通り沿いには「モスバーガー」「ブロンコビリー」少し離れて焼き肉屋やパスタ屋、ラーメン屋などいろんな飲食店がある。さっきも雨上がりなので車の窓を開けてお気に入りのシンガーの歌をボリュームいっぱいで聴いて来た。窓を開けているといい焼き肉の匂いが流れて来て腹が鳴った。

 たまには定時で帰りたいと、朝から必死に仕事をこなす。夕刻、それなのに急に来られたお客さんが営業マンと話し込む。そして玄関を閉めることができず…。はたまた、やっと仕事が終わり、金庫を閉め、部屋を閉めて「さあ帰ろうっと」と思ったところへ営業マンが集金の手形やら小切手やらを持って来る。そういうことって多々あった。「うわーっ、またか」と思う。

 これで本当に帰れると思い車に乗り込む。エンジンをかけテレビが始まる。すると思いがけず好きな女優のドラマが、はたまた思いがけず好きなシンガーの歌番組がやっていたりすることも往々にしてあるのだ。さっきのあの時間が存在しなければこれに遭遇することはなかったと考えれば、結果オーライだ。

 そしていい気分で帰宅すると、家族は菓子をぼりぼりさせながら「わっはっは~」とお笑い番組を楽しんでいる。私の「ただいま」の声にも、視線はテレビへやったまま「おかえり~」と。幸せな光景だ。私は妻が用意してくれた晩御飯を感謝しながら食べる。そして発泡酒でひとり乾杯する。この一杯のために働いているようなものだと思う。心の中で「ああ、明日は休みか」と思う。十分後私はそそくさと食事を終えて、シンクに山積みの食器と人数分の弁当箱をひとり黙々と洗う。これもきっと必ずやこの後、何かいいタイミングでいいことが起こるはずだと期待しながら。私の気分は良くも悪くもいい加減である。

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