僕は銀杏<夏> 作:越水 涼

 僕は銀杏<夏> 作:越水 涼

 季節は巡って、夏真っ盛りだ。相も変わらず道を歩く人の多くがマスクをして、車の中でもマスクをしている人がいる。

 この異常な風景とは反対に、もう何千年、何万年と繰り返されて来た風景もある。夏と言えばセミだ。その存在感は素晴らしい。僕の立つ場所からほど近い所に「美江寺観音」があってその境内の木々にとまって鳴くクマゼミ君の鳴声と来たら素晴らしいよ。暑い今だと早朝から「シャーシャーシャー」の大合唱。向かいの岐阜市民会館前の並木にも大合唱。クマゼミ君は地中に4~5年いて地上で鳴くのはたったの2週間位らしいんだ。彼等がその存在感を示すのはこの暑い夏の僅かな期間だけなんだ。僕ら植物も人間も犬も猫もそのクマゼミ君の声を夏の象徴として楽しく聴いている。

 クマゼミ君はまるで、今開催されているアスリートの祭典ーオリンピックーの選手に似ている。この舞台に立つために、舞台で世界中の人々に存在感を示すために、日々の努力、鍛錬、苦悩を何年も続けてきた彼ら。僕はひとつ、ある能力があるんだ。今初めて言うね。体はここから動けないけれど意識はどこへでも飛ばせるんだ。だから、今僕は東京武蔵野の森総合スポーツプラザのバドミントンの会場にいる。

 昨日は桃田選手の試合、フクヒロペアの試合、今日は奥原選手の試合を見た。残念な結果だったと思う。世界大会で勝利を積み上げて、ある時は世界ランキングでは上位にいる彼らも今回は敗退した。勿論悔しかったに違いない。でも僕はこう思うんだ。今回は敗退した彼らもまた称えられるべきだと。クマゼミ君が地上で鳴くことのできる時間の何百倍もの時間を地中で生きてきたのと同じように、オリンピックの選手たちはこの舞台での時間の何百倍もの時間を練習に励んできたのだ。たまたま自分のコンディションが悪かったんだ。対戦相手の運がよかったんだ。それだけのことだと思う。オリンピックの舞台での映像には映らない、今まで彼らが毎日やってきたこと、考えてきたこと、悩んできたこと、昨日の自分を今日は超えるんだと努力してきたことは僕らみんな想像できる。

 ありがとう。クマゼミ君、アスリートの皆さん。いやむしろ生きている全ての人たち、動物君、植物君みんなそれぞれの持ち場で頑張ってるさ。誰もが悩みながら、迷いながら生きている。僕も自分の存在が見てもらえる黄葉の季節までもうひと踏ん張りするよ。

 

 

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