僕は銀杏<巡ってきた秋> 作:越水 涼
僕は銀杏<巡ってきた秋> 作:越水 涼
僕の季節になった。けど心は浮かばない。美江寺公園の仲間は僕より大きく根を張り少し早く黄葉になって、今はもうほとんど葉を落とした。僕はまだ半分以上葉を残している。けれど、もうこんなこと繰り返すのは飽き飽きしてきたんだ。
前方に大きくそびえたつ市庁舎。目の前の信号を渡った通りにできたサンドウイッチ屋さん、立ち喰いうどん屋さん、近々オープンするラーメン屋さん。僕の周りの景色は刻々と変わっていくけれど、僕には変りようがないんだ。目の前のカメラ屋さん、シャッターが開かなくなって久しいけれどどうしたんだろう?お店閉めちゃったのかなあ?
せめて僕を公園に植えてくれていたら、もっと大きく根を張って枝を広げて目立ったかもしれないのに。この歩道の花壇の中じゃあ根も張れないんだよな。
でも、そんなことつぶやいていてもどうにもならないさ。たまにでもいい、僕を見上げてくれる人がいればいい。おしっこかけるワンちゃんがいればいい。たまにでもいい、雀や烏や蝉や蜘蛛や蟻や天道虫が休憩場所として使ってくれればいいんだ。お月さんが僕を照らしてくれればそれでいい。
僕のつぶやきも今回で終わりにするよ。季節が一巡りしたから。今年も終わりに近づいてきたけれど、僕もあなたも、明日になったら忘れてしまうような小さないいことがひとつ今日あったならまた明日生きていけると思うんだ。明日もきっと朝日は僕を包んでくれる。
《100投稿記念作品》
コメント