続続・ほろ酔い加減でひとり旅 作:越水 涼

 続続・ほろ酔い加減でひとり旅 作:越水 涼

 朝、家を出ると西の空にあまりにも大きな月が見えた。そう、昨日の帰りに車のフロントガラス越しに見た輝く満月の続き。今朝も寒いが、綺麗さっぱり晴れわたっている。

 大垣から七百七十円。ラーメン一杯の値段である。その値段で私は昨日、十五年ぶりに長浜へ向かった。ここらで気分転換をしておかないとという気持ちから有休を取ったのだった。とは言え三分の二は使えずに消えていく。これでもいいほうだ。三十年以上年三日取れればいい方だった。それはさておき。

 一人旅。列車の上には真冬ながらも照りつける朝の太陽が眩しいが、沿線の畑や屋根には薄く積もった雪が光を反射している。そのうち垂井、関ヶ原と走って行くと、明らかに積雪が多いのに気づく。完全に雪景色だ。柏原のホームにうず高く積まれた雪。今日の分だけではないのだろうが、あまりに多い。横殴りの雪。一面の銀世界へと入って行く。

 長浜駅に着いた。以前来たのは車だったからだろうか、この駅前の風景には一切の記憶がない。いつもは車を駐車場に停め違う方角から黒壁スクエアを散策した。幼児向けのアニメキャラクターの石像があった。オルゴールや人気のアニメスタジオのコーナーに子どもと来た。しかし今日は調べておいた蕎麦屋が一番の目的だ。なのに足元は雪がシャーベット状になっているし、まだまだ止む気配がない。私は黒壁スクエアに向かいそのエリアにはすぐ入ったのだが、右へ左へと回っても一向に店がない。そうするうち、こっちはどうだと入った一角にその店があった。

「そば八」という名の蕎麦屋。アーケードの中にも粉雪が入って来る中やっと見つけた。カウンターの席に座る。ピアノのジャズと弱い照明。木目の年季の入ったテーブル。なかなか渋くていい。私はさんざん迷った挙句注文した。本当は「十六文」という名物のざる蕎麦を食べたかったが、今日はあまりにも寒いこともあって「天丼ととろろ蕎麦」と「ぬる燗」に決めた。恐らく私の人生の中で天丼を食べたのは二回目くらいのものだったが、こんなにも美味しいものとは知らなかった。海老も烏賊も南瓜も。

 しかし、ざる蕎麦が本来大好物の私はまた暑い季節に来て、「十六文」を是非食べたいと思った。伊吹山麗や福井産のそば粉をブレンドしているらしい。きっと美味いだろう。そして今度は家族で来たいと思った。窓の外を見るとまだ雪が降っている。もっと他にも回ってみたかったが今日の旅はここまでとしよう。

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