新しい太陽と小さな幸せ 第六話 作:越水 涼

 新しい太陽と小さな幸せ 第六話 作:越水 涼

 三月は雪の舞うような寒い日もあれば、四月中旬並みの暖かい日もある。

 正確に何月のことなのかも覚えていないのだがこんな光景を思い出した。それは、夜勤から帰って来た父に母が燗をつけ、熱々の饂飩か何かを作って食べさせている光景だ。勿論私を含め他の家族は何時間も前に晩飯は終えて寝ているような時間。その時は私が勉強の合間に二階の部屋から降りて来て見たのだろう。中学生か高校生かだから酒など飲みたいとも思わなかったが、妙に記憶にあるのだ。当然それは何年もの間の夫婦の大切な時間だったのだろう。二人にとっての当たり前のことだったのだろう。時折り”夫婦喧嘩”をしているのを見ることがあったが、同時にかいがいしく世話をする母の姿、その両方共が夫婦の日常だったのだ。日常程大切なものはない。

 この時期、決算が近づいて気持ち的にざわざわしている。そんな中、三十九年も前に発表されたその曲を聴き直している。何年も前の作品でも、逆につい最近の作品でもいいものはいいのだ。『予感』に収録された『ファイト!』。自分なりの頑張りをしても日々の報われない時間。絶対に公正、公平とは言えないこの社会。けれど、周りがどう見ていようが、理不尽なことがあっても、君自身がその時間と気持ちにちゃんと向き合っていさえすればいいんだよと言ってくれる曲。少なくとも私はそう理解している。そしてその考えへ毎日立ち帰っている。

 小春日和の外からの陽の差し込む部屋で妻や娘が情報番組を観てゲラゲラ笑っている。買い物に行く相談をしている。その横で新聞を読む私がいる。そんな休日の家族の風景。こんな時間があることを幸せと言わずして何と言おうか。私は遠くのウクライナの記事を読んで心を痛めている。今すぐ終わってほしいと思う。日常を取り戻せるように強く強く祈っている。


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