新しい太陽と小さな幸せ 第七話 作:越水 涼

 新しい太陽と小さな幸せ 第七話 作:越水 涼

 四月に入っていよいよ決算のまとめの時期が始まった。あれもこれも、あれもこれもと、次から次へと仕事が回ってくる。私は朝の通勤時、アクセルを踏みながら今日の段取りを狭い頭の中で組み立てる。同時に私の視界にはアブラナの黄と、桜のピンクと、桃の白と淡いピンクと濃いピンクとその他大勢の植物の黄緑が入ってくる。

 これは、きっと幸せなんだろう。安月給とは言えやる仕事があるということも、こんな自然の恵みに囲まれていることも。人間がその強欲で彼ら植物たちを焼き払わない限りは、ずっとずっと同じ季節にそのきれいな姿を見せてくれるのだ。人間の世界の理不尽な世界の中にも植物と水と太陽と空気はいつも一緒にいるのだ。

 かねてから密かに計画していたことを今日、実行した。それは、帰路ノンアルビールとカップ麺を買って漫画喫茶のパソコンで執筆するということ。十年前の私にはこんな余裕はなかった。あまりの重圧に押しつぶされ、会社の屋上に何度か上ったこともある。しかし、今の私の傍にはすっかり成長してくれた家族と、力強く歌ってくれるシンガーソングライターと、その深く美しい描写の文章を見せてくれる小説家がいる。

 そもそも誰かと競い合うなんておこがましいのだ。持つ者、持たざる者、若者、年寄り、男、女、器用、不器用、声が大きい、声が小さい、挙げたらきりがない。みんな違うのに、競い合う必要なんてないんじゃないか、って思うようになったのはごく最近のことだ。私の尊敬する小説家が言っている。「誰かと競い合うのではなく、自分の人生を自分で切り拓くために戦い抜く。弱さと向き合いながら自分自身と戦い続ける」と。

 今はこんな駄文しか書けない私だがやり始めたことだ。修行時間だ。古いもの新しいもの、あらゆることに興味を持って小説の深い所に練りこみたい。あと半月くらいは決算のまとめで仕事もばたばたするだろう。その後も何のかんのと仕事が回って来るだろう。しかし、自分が昨日より強くなれば何とかなるはずだ。毎日毎日強い味方に助けてもらいながら、弱い自分と戦い続けよう。

 明日も私達地球上全ての者たちに平等に照らしてくれるだろう新しい太陽にきっと会えるのだから。


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