或る古書店店主の物語 第三十四章 弘子(六) 作:越水 涼
第三十四章 弘子(六) 作:越水 涼
道の駅に着いた。弘子は決めていた。この昔の恋人とはちゃんと別れようと。
オリーブ畑に囲まれた公園、小高い丘にある白い風車、映画のロケセットもあるという広い道の駅。思い出にするには絶好の場所かもしれない。
「それじゃあ、まずは風車かな?」
「うん、いいよ」
白髪の二人が若者たちに混じって、風車へとつながる道を歩く。
今更ながら思う。この人とあのまま続いていたら今の自分はどんな人生だったろうか?違う子どもがいて、違う仕事をして、違う場所で生活していたのだろう。当たり前のそんなことを目の前のどこまでも広がる大きな空を見ながら考えている。
その白い風車はずっと前方に見えていたと思っていたが、すぐに大きくなっていった。黄緑色の芝生と濃い緑のオリーブの木の中にそれはあった。
「きれいだね」
「うん」
二人はその風車の下に着いた。そしてその大きくそびえ立つ風車を見上げた。目を下にやるとその向こうには太陽の光が反射する青い瀬戸内の海が輝いている。
「海が光ってるよ」
「うん。すごくきれい」そう言った切り二人は黙った。五分くらい経っただろうか、浩二が話し始めた。
「今日はありがとう。でもオレらあの人達からどう見られてるんだろうね?やっぱり夫婦かな?」
「そうね。夫婦以外ないでしょ?子育てが終わった夫婦が観光に来てる、みたいな」
「そうか、そうだよな」そう言って、浩二は笑った。
弘子はいかにも楽しそうな浩二の顔を見ると、大事な話を切り出せないのだった。
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