新しい太陽と小さな幸せ 第十話 作:越水 涼

 新しい太陽と小さな幸せ 第十話 作:越水 涼

 僕は約二週間振りに町の図書館へ来た。まだ夏の蝉の声が聞こえる窓際の机でこれを書いている。”長期療養”により溜まっていた仕事を少しでも消化しようと一昨日、昨日と出社した。誰もいない久し振りの事務所では、一切の邪魔が入ることなく仕事が進んだ。

 さて、妻に頼まれた本をまず探し見つけた後で僕はこの二ヶ月程ずっと探していた『雨滴は続く』を見つけた。西村賢太氏の最後の小説である。二月に亡くなったニュースを見た時はショックだった。三年程前に初めて読むようになりとても馬の合った僕はそれまで二十冊程の作品を読んでいた。今から二ヶ月位前、たまたま立ち読みした『文學界』での氏への追悼特集記事や新聞の本の紹介欄での書評を読んでいた僕はそれをどうしても読みたかったのだ。

 こういうことは時々ある。このタイミングで図書館に来たからその本は本棚にいてくれたくれたのではないかと。今朝墓参りに行ったからではないかと。勝手な思いに苦笑する自分もいる。

 ふと窓の外を見ると、昨夜のその音で何度も起こされるような土砂降りが嘘のように、まだ強い夏の光が降り注いでいた。本来の休日のように今日と明日は読書をして過ごしたいと思った。やがて借りた五冊の本を小脇に抱え僕は外へ出た。「暑っつ」肌に刺さる太陽の日射しさえも自由の身となった今の僕には心地よく感じられた。


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