逃げてよかったか?【断片小説シリーズ1】 作:越水 涼

 逃げてよかったか?【断片小説 シーン1】 作:越水 涼

 ぎりぎりまで出せないでいた、同窓会の出欠の返事。今風にQRコードから幹事のLINEとおともだちになって返事をした。

「折角の案内ですが、すみません。12月頭に大切なイベントがあり、コロナやインフルエンザもあり大人数での集まりは避けたいのと、会社の仕事がバタバタで、他にも町内会長の仕事などで気持ち的に余裕がなくて」

 逃げたのだった。

「河井くん、同窓会の出欠の返事ありがとう。今のところ返事が半分でそのうち出席も少ないですね。皆さん色んな事情で出られない方も多いです。卒業から四十二年も経っていると、それぞれに色んな経験をして来ていて話題が尽きませんよ、きっと。ではまたの機会にね」

「ありがとうございます。別の機会にタイミングが合えば参加したいです。当時僕は全く喋らない人間だったから四十年以上会ったことのない人間と話すのってどんな気持ちになるんだろうね?まあ、初めて会った気で色々話せたら面白いでしょうね!ではその時までお元気で!」

 正直、出席してもいいかなあとも思っていた。しかし行ったところでいつもの孤立感を味わう気もして怖かったのだ。こんなに年月が経っているから、当時の立ち位置とか上下関係とか成績とか関係ないとも思ってはみた。適当に”還暦同窓会”らしく今の話題で面白おかしく振舞えばいいのだと。とは言うものの、私は勇気や図々しさ、冒険といったものにかなり遠くにいる者だから、「いいねえ、還暦同窓会か!行く、行く」なんて即答できるわけがないのだ。それができる性格だったらどんなにか今までの人生変わっていただろうな、と思う。

 同じ中学からその高校へ行った者は中学の同窓会で会ってはいるが、高校でだけの同級生に会ったことがあるのは、偶然にも私が世話になっている車屋さんの社長夫人になった子がいるだけで、他には一人もいない。そうだとしても、いずれにしても、この先そんなに長くは生きられないのだ。その日、その時間、その場所に行けばいいだけのこんな催しは、やっぱり参加して何かの刺激、活性化、気分転換すればいいんだろうなって思う別の自分がいる。

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