続続続続続続続続続・ほろ酔い加減でひとり旅 作:越水 涼

 続続続続続続続続続・ほろ酔い加減でひとり旅 作:越水 涼

 ミヤコ地下街のそのラーメン屋は突如私の目の前に現れた。「行きたい場所リスト」に載せていた店が、今日はいつもと違う地下街への階段を降りたために、しばらく歩いたところで目に入った。席に着いてみそラーメンとビールを注文して、ガラス越しに地下道を足早に歩く人々を見たとき、耳に入って来た音楽。私が古くから聴いて来た歌い手の『夏土産』だった。七月の今、丁度の曲かもしれない。さっきこの執筆場に来る途中でも、ビルの合間に見える青い空に浮かぶ雲は”入道雲”だった。こんな私でも入道雲ぐらい知っている。梅雨が明けたのかもしれない。昨日の妻との諍いにほとほと疲れた私は、予め取っていた有休で、ひとり出かけた。何度目かのほろ酔い加減でひとり旅だ。

「飲み物は何にします?」

「ビール」

「キリンかサッポロかどっちで?」

「サッポロで」

 最近来ていなかった、丸八寿司で中ランチを食べ、サッポロ黒ラベルを飲んだ。まだ十一時前なのに中年の客が一人いた。いつもの板前さんに近くの席を勧められて座った。後に私の隣に座った初老の客は並ランチだった。こっそり視線を送ると私の物との違いは”いくら”のあるなしと、鉄火の数の違いだった。三百円の違い。だが、以前私も並を頼んだことはあったはずだ。その時そうだったはず。いずれにしても相変わらず美味い。ランチには赤だしの味噌汁が付くのだが、これがまた最高に美味いのだ。これだけで私なら五百円出してもいいと思う。本当は最初妻を連れて来るためのリサーチだったのに、もう妻とどこか行くことはあるのだろうか?しかし、よく冷えた大瓶の黒ラベルは好きだ。昔々に家で近所の酒屋からケースで買っていた時代があった。それがこの黒ラベルだった。アメリカにいる従妹がアメリカ人の旦那を連れて来た日に飲ませたビールだった。彼は「日本のビールは濃くて美味い」とイングリッシュで言った。そんなことまで思い出した。

 この後にラーメンを食べ、キリンクラシックを飲んだというわけだ。この時点で腹ははちきれんばかりだった。この後、今日のメインイベントの映画を観た。ネット上で騒がれている点は左程のことではなく、別のシーンの主人公の友人が結婚相手に向かう覚悟を話す場面こそ核心場面のような気がした。ただ私のようないい加減で曖昧なまま生きている人間にとっては、あんなに真剣に誰かと共に生きていく覚悟ができている人を前にしたら、劣等感を抱くばかりだ。映画が終わる頃には酔いも醒めた。爽やかな恋愛物や小さな子どもの出るような映画なら気持ちも楽だろうが、この映画は何か心の中に灰色の空気を注入したような気にさせられたのは私だけだろうか?

 そんなこんなで、私はすっきりと気分転換もできず岐路に着くのだった。

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