佐々木君どうしてる? 第三章 さだまさしとオフコース 作:越水 涼

 第三章 さだまさしとオフコース

 私は未だにオフコースを聴く。

 もうどこの田んぼも収穫が終わり、この地域特産の富有柿もいよいよ本格的な出荷が始まるという季節、丁度この時期出勤途中の車でオフコースを聴く。同じようにオフコースが好きな後輩に作ってもらったベスト盤CDか、テレビで放送していた武道館コンサートを録画したDVDで。

 オフコースは夏ではなく春でもなく冬でもない。秋がしっくりくる。少なくとも私が好きな曲、”秋の気配”や”愛を止めないで”や”さよなら”や”Yes-No”などはその曲調といい歌詞といい、冬の少し手前の季節にぴったりだ。この季節、何やら風景も私の気持ちも少し哀しい。「不安」という言葉がぴったりだ。

                   ×××

 生物部は佐々木と私、三年生の部長、二年生の副部長の男ばかり四人しかいない。秀才肌の部長は色白の長身で、見るからに真面目な人だった。どうやら東京水産大学を目指しているらしい。副部長は後に部長になるのだが部長とは正反対の口だけ達者な人だった。秋も深まって来たがストーブはまだ点けてもらえない十一月後半の頃。

 私達二人しかいない生物部の部室も兼ねた科学実験室で来年のことを話していた。

「佐々木、生物部、大丈夫かなあ?来年新入生をよっぽど多く入れんと廃部じゃない?」

 私は最近になって思うようになった不安な気持ちを佐々木に話した。

「そうなんやて。どうしようかしゃん。何かいい方法ねえかなあ」

「そうやなあ。目立つポスター作って、楽しいよとか、勉強教えてもらえるよとか書くか?ポスターのイラストは僕が描くからさ」

 中学時代美術部だった私はそんなことを言った。

「勉強?誰が教えれるの?部長が卒業したら教えれる人間はおらんぞ」

「そうやなあ。困ったなあ」

 特に名案がある筈もなく私達は二人、ただ溜め息をつくばかりだった。

 と、不意に佐々木が言った。

「河井はオフコース聴く?」

「あんまり知らんなあ。僕はさだまさしはよく聴くけど」

 この頃私は、さだまさしが好きで『帰去来』や『風見鶏』といったLPを買って、叔母が置いて行ったおんぼろステレオで聴いていたのだ。

「さだもいいけど、やっぱオフコースやて。あの曲調とギターテクニックとハーモニーと情景が浮かぶ歌詞が絶対いいんやて!」

 と珍しく佐々木が大きな声で話した。

「そしたら今度、ダビングしてテープ持って来るわ」

 私は佐々木からオフコースのカセットテープを借りることになった。


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