佐々木君どうしてる? 第五章 金華山 作:越水 涼
第五章 金華山
通勤途上、信号待ちで右の先を見る。この信号で停まった時の私の癖だ。その先には伊吹山が見える。手前の山に遮られて上部が少しだけ見える。今朝は寒かったからか頂上付近がうっすらと白く見える。雪が舞ったのだろう。
学生時代、私は北アルプスの三千メートル級の山々と愛知県、三重県、滋賀県の千メートル級の山々によく登った。夏か秋が多かったが、その季節を感じ、頂上に登った時の達成感は何物にも代え難い物だった。植物、川、雪渓、カモシカ、野鳥、蝶々など山に生きる全ての自然が素晴らしいと思った。上半身に比べ、今も足だけ太いのは山登りのおかげだと思っている。
それが今では妻とせいぜい年に一度か二度、金華山に登るくらいのものだ。面倒臭さが先に立ち、計画を立てる気もない。三百メートル弱の金華山でさえ軽く汗をかき岐阜城のたもとで、家で握って来た握り飯を食べるだけでも楽しいと分かっているのに、それさえしようとしなくなってしまった。
×××
或る日、佐々木と私で岐阜市のシンボル金華山に登った。雪がまだ残っていたから冬には違いないのだが、高校生の時か、大学生の時に帰省して会った時か、はたまた社会人になってからのことなのか、思い出せない。
「ハア、ハア、ハア」佐々木がえらそうに私の後をついて来る。
「おい、ちょっと待てよ。河井!」佐々木が叫ぶが私は振り向きもせずどんどん登って行く。
「休憩までもうすぐやでがんばれよ」と私。
「もうやめとかんか?こんな道は危ないて」
雪がなければ登り続けたのだが、つるつる滑る山道に二人とも閉口していた。残念乍ら、佐々木も私も運動神経はお世辞にもいいとは言えない。
「そうやな、やめとこっか」
私達は歩き始めてまだ三十分も経っていないと言うのにあっけなく下山した。そして、近くにある伊奈波神社へと初詣に向かったのだった。女っ気さっぱりの男二人、ただ汗だくになっていた。
若いカップルがたくさん来ていた。明らかに私達は浮いているのだが仕方がない。神様にお願いしたのは、”彼女ができますように”だったのは言うまでもない。勿論二人とも。
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