佐々木君どうしてる? 第七章 映画『長江』と大学下見 作:越水 涼

 第七章 映画『長江』と大学下見

 二十五年の眠りから覚めた女性が小学生の時のアナウンサーになるという夢を叶えた。理想の教師像を追って苦しみながらももう一度教師になった男性。そんなテレビのドラマが終わった。夢を実現する為にはまずは諦めないことが大事なのだ。しかし高校時代の私はそんな夢など持っていなかった。その頃読み始めた『青春の門』の主人公のように”自分が何者なのか見つけるために”とか”どう生きて行くべきかを見つけるために”大学に行くのだと思っていたのだ。

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 私と佐々木にはいつの間にか、何かを成すこともなく、三年生も何か充実していたという訳でもなく、大学受験が目の前に迫って来ていた。二人とも観たいと思っていた、さだまさしが作った映画『長江』を一九八一年も終わりの日曜日、電車を乗り継いで名古屋まで観に行くことになった。ただ名古屋のどこの映画館で観たのかはさっぱり思い出せない。

 私が電車で出掛けることなど通学以外ではほぼ皆無に等しかった。同時に映画を見に行くこと自体がそれこそ父か母に岐阜の柳ヶ瀬にあった映画館で”東映マンガまつり”といった映画を観に連れて行ってもらって以来だったのだ。『長江』はさだまさしが長江(揚子江)とその流域を旅する半ドキュメンタリーの映画で中国の雄大さを私が知ることにもなった。まだ三十歳前の一見病弱そうにも見えるフォーク歌手がこんな大きな物を作り上げたことに、私はただ感心していた。

 この日のもう一つの目的は、東海地方では難関私立大学の南山大学の入試の下見だった。地下鉄の駅を降りて二人、坂を歩いて行くとコンクリートの大きな門が空中に見え、それをくぐった。構内に入ってもまだ坂は続き、芝生の大きなエリアが見えて来た。私はこんな所でテキストを開けながら可愛いガールフレンドと楽しげに他愛のないお喋りをする光景を想像した。

 この頃佐々木には弁護士になるという夢があり法学部を受験する予定だった。私は普通の会社員にとしか考えていなく経営学部を受ける積りでいた。

「河井、二人とも合格したらここに入ろうな」

「うん、勿論だよ。三年間親友やったんやでな。もう四年頼むわ」

 しかしこの会話の通りになることは残念乍ら、なかった。


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