ほろ酔い加減でひとり旅(二) 作:越水 涼

ほろ酔い加減でひとり旅(二) 作:越水 涼
 
 私は通りを歩いて行った。暫く行くと「寺町通り」と大きな看板が貼られたアーケード街が見えて来たので入ってみることにした。その商店街は八百屋や海産物店、仏壇屋、洋服屋など様々な店が立ち並んでいた。思いがけず長い商店街でゆっくり十分位かけて歩いた。ただ平日の十時半、人通りは少なかった。アーケードが終わったところで私は左側へ回り、そこは商店街の建物の裏側になるのだがそこには堀というのか川というのか水路というのか、まさに商店街沿いにあった。堀は澱んだ感じだったが小さな俊敏に動く多くの魚が見えた。

 私は何だかこの”堀”がどこまで続いているのか気になってそのまま沿って歩くことにした。そばには小さな公園がありその後、最初のアーケードの入り口へ戻り大通りを渡った。それをまた少し歩くと一旦途切れていた堀が今度はもっと大きな”水路”になった。それをダムと言えば大袈裟になるが所々にあるコンクリートの階段には亀が何匹も休んでいた。亀がいるぐらいだから何か彼らの食料になる生き物もいるのだろう。私が近づいて行くと彼らは水に飛び込んだ。「バッシャーン」大きな石でも落ちた様な音があちらこちらでした。私はどこまでも続く水路を辿って歩いて行った。もう十五分程歩いただろうか、それは水路と言うよりもやはりダムか池と呼んだ方がいい大きさになった。前方に大きな堤が見えてくる。それを登り終えるとそこには前方にゆったりと流れる大きな川が見えた。揖斐川である。私は勿論、休日にどこかへ行く途中で運転しながら揖斐川を見ることも、それに架かる橋を渡ることもあるのだが、揖斐川を見に来るのが目的というのは初めてかもしれない。そして左方向、つまり少し上流には長良川の河口堰が見える。ということは目の前はもう揖斐川と長良川の合流したところかと思った。何が釣れるのか川岸には釣り人が二人長い竿をセットして何か喋っていた。

 この近くには「七里の渡し」があり、今は公園として整備されているが、宿場町としての桑名の大賑わいの時代があったという。右へも左へも歩いて行く道があり公園を回ってもよかったのだが、今日はこの大河の流れを見るだけで私の心は満足していた。正確な所は勉強不足だが今から百年以上も前からこの川を凄い数の舟が行き交い様々な物資が運ばれて来たり運んで行ったのかと想像すると楽しくなった。その時代にもし私が生まれていたらどんな人生を送っていたのだろうか…。

 暫くその場に佇んだ私はその大河に背を向け「六華苑」へと向かった。

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