新しい太陽と小さな幸せ 第九話 作:越水 涼

 新しい太陽と小さな幸せ 第九話 作:越水 涼

 この季節になると夕方の五時ではまだ太陽は西の空の上の方にある。閉館時間にあと一時間の町の図書館で、お決まりのように二週間に一度読めもしないのに今日も五冊の本を借りた。私は駐車場前の水路の傍の木陰に立って、水のぶつかる音と木の上の枝に乗って鳴く雀の声を聴いている。

 四月に始まった決算期も一昨日の株主総会で一区切りした。今後も色んなことで気を悩ませるのだろうが取りあえずの一段落だ。しかし日曜日のこれくらいの時間になると、また明日からの仕事のことが頭の中に戻って来る。でも昨日の土曜日は久々に妻と上の娘と私とで半日買い物に回った。「今日はおれが出す」と言って、パスタ屋の夕食代と二人の衣類代、娘のスニーカー代をおごってやった。そして今日も下の娘を含め四人で昨日とは別のショッピングモールへ行った。開店時間直後にまず昼食の回転寿司屋へ入ってたらふく食べた。そして延々と下の娘の服や靴を見て回ったのだ。

 帰宅後、私が目を離した隙にリビングで三人ともが昼寝している。平和である。扇風機を出して三日目のことである。私はその何時間かあとに図書館に来て本を借りたという訳だ。借りる本は大抵お気に入りの数人の作家のまだ読んだことのない作品だ。小説もいいがエッセイもいい作家もいる。今日は数年前の”山本周五郎賞”に選ばれた湊かなえさんの「ユートピア」とその賞の選考委員だった石田衣良さんのエッセイ集などを借りた。石田衣良さんの本は初めて読む。楽しみである。

 昨日は何ヶ月振りかの洗車をした。家中の部屋に掃除機をかけた。廊下の雑巾がけをした。掃除の最中は無心になれた。それを思い出しながら、帰宅した私は明日履こうと久しく履いていない焦げ茶色の革靴にブラシをかけた。そして部屋に戻り一冊読んでいると下の娘の「ご飯できたよ」の声。

 私には傍にいてくれる家族と本がある。明日からも決算が終わって心機一転、ほどほどに頑張ろうと思う。丁度六時、夕焼け小焼けの音楽が町の広報のスピーカーから流れた。まさに平和である。


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