続続続・ほろ酔い加減でひとり旅(前篇) 作:越水 涼

 続続続・ほろ酔い加減でひとり旅(前篇) 作:越水 涼

 六月のあたま。低いところに白い雲が沢山浮かんでいる。梅雨に入る直前のかつまだ暑くはないある日、私はひとり旅に出る。久々に半日の休暇を取った。午後の半日だ。

 私は今朝からああでもない、こうでもないと考えていた。つまり、電車で行くか車で行くかをである。余呉湖に映る青空と白い雲の写真を家族で行った雑貨屋の本の中に見たのは一ヶ月程前のことだ。快晴で程よく雲が浮かんでかつ風がないのがベストと思われた。

 明らかに一人欠員の状態が何年も続く私の職場で、私だけが遠慮して休めない。そんな中でも何とか休める日の休める時間帯を都合して時間休を取ったのだ。その日のその天気が偶然にも、少なくとも私の住居や会社近辺ではベストと思われた。通勤時の水の張られた田んぼのようにまさに風がなければ、余呉湖でもあの写真のような風景が見られる筈だ。私は胸躍った。

 そそくさと会社を出て車に乗った。運転しながら考えた。全部車で行くよりは大垣からJRで行けばいいか。私の頭にはあの写真と同じ風景が広がり、心はざわざわした。ただ残念なことに今日の場合この時間では”ほろ酔い気分”では行けないのだった。帰りの運転があるからだ。

 大垣駅に着いた私は駆け足で階段を昇る。先の時間などは調べぬまま米原行きの十四時四十一分発普通列車に乗った。途中の停車駅、垂井では駅前に戦国武将の家紋の描かれたのぼりが風にはためいていた。風があるのかと私は少し不安になった。

 この路線には一月にも乗っていた。あの時はこの辺りから雪がうず高く積まれていたなあと思い出した。季節は巡って、線路沿いでは既に稲が植えられている田んぼがあればまだの田んぼもあった。いつの時も日々は流れ、歴史は刻まれて行くのだ。私はそんなことをぼんやりと考えながらひとり旅を始めた。




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